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流通業界、市場変化の臨界点(27)

2015年9月1日10:57

「楽しい」とは何か

 「楽しい」を提供するには、冒険心と決断力が要る。なぜなら、常識のライン上には、顧客が期待する以上の楽しさは存在しないからである。楽しさが顧客の期待レベルを上回るほど、その評価は高まり、その店の存在感は高まる。

「ヤオコー富士見店」

 写真は、関東の基盤のヤオコーの最新店舗で埼玉県にある富士見店である。三井不動産が展開するららぽーと富士見に、キーテナントとして出店している。

 このららぽーとの敷地面積は15.2万m2、テナント293店の全売り場面積は8万m2もなる。施設内には東急ハンズやリブロ、ZARAといった専門店のほか、百貨店である京王や三越伊勢丹のサテライト店舗も出店している。いわゆる巨大ショッピングセンターである。普通、このような大規模施設への食品スーパーの出店は、不利だと言われる。広い駐車場や店舗施設内の移動に時間がかかるため、頻度の高い食品購入には向かないというのがその理由である。

 ヤオコーの店舗面積は2.756m2。優に800坪を超える。通常のスーパーの2倍近い面積規模である。これも、買い回りに時間がかかるということになる。周辺は住宅街であるが、駅からのアクセスは良くない。周辺道路も狭い。このような条件下での出店に、当初、社内では少なくない反対があったという。売り場面積や賃借料を考えれば、年商40億円近い売上が必要である。この数値は、ヤオコーの既存1店舗当たり平均売上の2倍である。しかし、ヤオコーはあえて出店した。

 詳細は省くが、この店でヤオコーは広い売り場を利用して、通常のスーパーとまったく違った価値をお客に提供している。売り場のあちこちにメニュー提案のための対面販売員を置き、シースルーの作業場で、できたてとシズル感を訴える。いわゆる「非効率」と「ビジュアル」の実践である。

 結論から言えば、この出店と売り場づくりは成功している。まだ、開店したばかりで確定的なことは言えないが、彼らにしてみれば、大きな手ごたえを感じているはずだ。
 この店がうまくいけば、デベロッパーはさらにヤオコーにとって有利な条件で、店舗提供を申し出るはずである。ヤオコーにとっても広い意味でその成功は大きい。

 「虎穴に入らずんば虎児を得ず」――。小売業における決断もテーマパークのそれも、似たようなものである。顧客の期待以上のものを提供しようとすれば、そこには必ず、常識から見た場合の大きなリスクある。しかし、それを越えない限り、顧客からの高い評価は手にできない。店舗もテーマパークも、理屈は同じなのである。

 ヤオコー川野会長の思いは「小売業の地位を上げたい」である。小売業はその存在なくしては普段の暮らしが成り立たないにもかかわらず、社会的評価は、どちらかというと高いとは言えない。
 思いを実現するためには、まず従業員が誇りを持てる店をつくり、そこで全員で経営に参画する。斬新な店づくりだけでなく、持株会やパート社員主導のメニュー提案など、ヤオコーが取り組むテーマは多岐にわたる。従業員の満足こそ、顧客満足への近道。これがヤオコー進化の原点である。従業員もそれに応える努力をしているのが、店舗現場で見て取れる。

(つづく)
【神戸 彲】

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