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流通究極進化 「目的買いと衝動買い」(3)

2014年10月3日07:03

<規模拡大は原価低減の切り札になるか>

 M&Aでよく言われるのが、統合による販売量の拡大を背景にした仕入れ原価の低減である。しかし、それは幻想に過ぎない。
 もともと、小売業が商品調達を依存する卸の営業利益は、大手でも小売りに増して低い。それだけに、年間購買額の1,000億円が3,000億円になったとしても、特別なケースを除いては、思うような原価の低減を手にするのは容易ではない。さらにM&Aには、「企業文化の融合」という、解決に時間がかかる問題が発生する。

 もう1つ見落としてならないのが、原価を2%引き下げて、その引き下げ分を売価に反映しても、あまり効果がないということである。数%の価格の違いでお客が遠くからやって来るかというと、そんなことはない。つまり、その程度の引き下げで客数は増えないということである。
 お客が明らかに価格を意識するには、標準的な価格から6%以上の低価格というのが現実的な数値である。ざっくり言って、値入れに連動して売価を6%引き下げられるのは、6%以上の経常利益を出しているということだが、そんな食品小売業は存在しない。

 しかし、平均的な小売業より、6%どころか普通の店より10%前後安い価格で販売している小売業は実在する。
 一般的なスーパーマーケットの販売管理費率は九州の場合20%前後だから、10%安く売るには、販売管理費率を10%以下にする必要がある。問題は、それをどんな方法でそれを実現するかということである。

<価格以外の価値創造>

 安売りの対極にあるのが、店舗や商品に他社にない付加価値を付けてお客にアピールするという方法である。

 消費者が利用する条件は第一に「近い」であり、次に「安い」というのが世界共通のものである。どこよりも近い場所にどこよりも安い店があれば、ほとんどの消費者はその店を利用する。しかし、そんな条件を整えるのはまず不可能である。そこに、立地を克服する価格と質の競争が発生する。

 人間は、理論と計算のほかに好き嫌い――つまり好みで物事を判断する。距離と価格を凌ぐのは、この好き嫌いに他ならない。これは人類共通の基本的な行動原則である。
 この好みに焦点を当て、安心・安全を加えてその部分を強調する店をつくれば、価格という絶対的な集客手段に代わる価値を生み出すことができる。

 下のグラフは、アメリカの有名な調査会社「Consumer report」誌の2万8,000人余りのアンケートを筆者なりの視点で分析したものだが、驚いたことに、距離や価格をしのいで「好み=好き嫌い」が高いポジションを占めているのがわかる。この傾向は、人間共通の傾向であり、国や地域には関係ない。
 もちろん、好きな店だからどんなに高い値段でも利用するということではない。そこには当然、価格の縛りも存在する。

graph

ワザワザの店を作らなければお客は「近くて安い店」を選ぶ(consumer report より)

<好み(わざわざ)とは何か>

 たとえば、久山にあるアメリカの倉庫型小売店(ホールセールとはいうものお客の大半は個人客)「コストコ」の駐車場には、佐賀、長崎、久留米、筑豊ナンバーの車がひしめいている。熊本や宮崎ナンバーさえ珍しくはない。買い物客も家族連れ、友人、夫婦と多彩であり、その年齢もさまざまである。

コストコ コストコの品ぞろえアイテムはスーパーの10分の1で、しかも価格も決して安くはない。1品単価はと言えば、普通のスーパーの5~10倍である。とても値ごろとは言えない。しかし、いつ行っても駐車場は満車であり、店内はごった返している。

 この企業の注目すべき特長は、世界中の店舗で毎年既存店舗売上を伸ばしていることであり、しかも店舗当たりの売上が大きいことである。つい10年ほど前は100億円程度(1ドル100円換算)だった1店舗当たりの平均年商は、昨年、160億円を超えるまでになっている。
 その理由は、独自性にある。同じ品ぞろえの店が他にないということである。日本のメーカーの商品であっても、コストコ用の商品は普通のスーパーにはない。コストコに行かなければ買えないのである。
 その特異な商品に加えて、彼らにはエンターテイメント性がある。約4,000品目に絞り込んだ商品ボリュームは圧巻であり、顧客はそこに普通のスーパーにはない非日常を感じる。客の大半は数万円の買い物をしている。しかも、明確な目的買いと衝動買いのお客が混在している。
 レジ外のイートインコーナーでは、メニューに加えて、売場で買ったばかりの巨大なピザを複数家族で分け合って食べ合う光景も珍しくない。子どもにとっても、大人にとっても、まさに非日常なのである。だから、いろいろなお客がわざわざ遠くからやって来る。

 明確な目的買いと衝動買い。地域や規模、業態に関わらずこの相反する購買行為の共存こそ、我々が注目、追究すべきことである。

(つづく)
【神戸 彲】

<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。現在は、流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を務める。

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